その日、十五時から始まる清宮さんの
息子さんの演奏に間に合うように、
桜都たちは少し早めに家を出た。

淡いピンクのワンピースに、
レースのカーディガンを着ておめかししたので、桜都はとっても気分が良かった。

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コンサートホールはとても広かった。
見上げると天井は高くて、桜都はつい手を
伸ばした。

舞台にある黒く輝いたグランドピアノの
隣には、綺麗に飾られた色とりどりの花が
生けられていた。

桜都はその、とても綺麗な花をもっと
近くで見たくて、空いていた最前列の席に
座った。

帰ったらこの絵を描こっと。

そう思って桜都はじっくり観察し始めた。

けれど桜都には、集中すると
周りが見えなくなる癖があって、
次の演奏者が舞台に上がっていたことに、
全く気がつかなかった。

隣に座っていた両親はそんな桜都に気づき、
ひじでとんとんっと突いた。

それは拍手が止んだあとだった。