ニ、の、次のコンクールを最後にする
(厳密に言えば入賞者のコンサート)
には、少々問題があった。

美樹は時雨の弾くピアノが大好きだった。

時雨がピアノを練習している間、
美樹は時雨のそばにちょこんと座って、
毎日静かに聴いていたし、
時雨のピアノコンクールは毎回必ず
見にきていた。

そんな美樹が、次のコンクールが最後と知ったらどれだけがっかりすることか、
時雨には想像が出来た。

もしそうなれば、

「なぜもうコンクールに出ないの?」

なんて聞かれてしまうし、
正直に、医者になりたくて中学受験の
勉強をしないといけないからと答えれば、

「なぜ医者になりたいの?」

と聞かれることは目に見えていた。

そんなとき、美樹の病気を治したいから
なんてとても言えやしない。

そんなこと言えば、
美樹は絶対反対するに決まっていた。

、、だからといって、
時雨にはそれ以外の理由は思いつかなかった。

だから美樹には最初から
何もかも秘密にした。