両親は、時雨が本気で医者になりたがって
いること、ちゃんと分かっていた。

けれど医者になりたければ、
今とは比にならないほど
勉強をしなければならない。

それは、ピアノの練習時間が
削られてしまうということで、
ピアノをとるか、勉強をとるか、
簡単には決められない、
とても難しい問題であった。

もし医者を目指すことを許せば、
時雨は才能を捨てるも同然だった。

けれど時雨は諦めなかった。
ただ、早く美樹を助けたい一心で、
両親を説得し続けた。

そんなある日、時雨が医者になりたい
理由を話すと、両親はため息をついて
反対をやめた。

それは両親が、
時雨は美樹の為になるとなんでもする子だと
知っていたからだった。

医者を目指すことを許した両親だったが、
それにはいくつかの条件があった。

一、まずは中学受験に合格する。
二、次のピアノコンクールを最後にする。
(厳密に言えば入賞者のコンサート)
そして、
三、美樹には秘密にする。