桜も散り、紫陽花の時期になった。
 あたしは、紫陽花を愛でながら、本を読んでいた。
 ゆうとは、桜が散っても、関係は続いていた。
 続いていたと言っても、本を読むあたしの隣で、ゆうが、独り言を言うだけの関係だけだけど。
 ゆうは、「お酒臭い。」と言った日から、お酒の匂いに気を付けてくれていた。
 「はずきちゃんは、花が好きなんだね。」
「えっ…。」
「桜の次は、紫陽花を見てるから。」
「花が好き…。
そうかも…。
今まで何とも思ってなかった。」
「こんなに、花を見ているのに?
はずきちゃん、かわいいね。」
「えっ…。」
 あたしは、顔が、赤くなった。
 「あのさ…、はずきちゃん…。」
「ごめんなさい。
学校行かなきゃ…。」
「そっか…。
もう、そんな時間か…。
いってらっしゃい。」
「いってきます。」
 あたしは、本をしまい、自転車に乗り、学校に向かった。
 残ったゆうは、はずきを見送り、ベンチに座り、ため息をつき、考え込んだ。
 「(今日も、伝えられなかったなぁ…。)
(いつになったら、伝えられるんだろ…。)
(はぁ…。)」
 学校に着くと、薫に、今日のゆうのことを聞かれた。
 「おはよう、はずき。
彼とは、進展あった?」
「おはよう、薫。
何もないよ。」
「(何やってんの?)
(そのバカ男!)
(奥手過ぎるにも程があるでしょ!)」
 薫は、ぶつぶつ言いながら、教室に向かった。
 はずきは、何を言ってるのか、聞き取れなかった。
 「何言ってるの?」
 はっ!となり、慌てる、薫。
 「何でも…、ないよ…!」
「そう…?」
「そ…、そう…。」
 はずきは、頭の中に、?が飛んだ。
 「進展あったら、すぐに教えてね?」
「進展なんてないと思うよ?」
「いや、絶対あるから。」
 薫は言い切った。
 はずきは、また、?が頭の中で飛んだ。
 今日は、給食の日。
 高校でも給食があるのは、うちの学校くらいで、しかも、ちゃんとした、三つ星レストランのシェフが作った、給食なので、この給食目当てに入る子もいるくらいだ。
 でも、あたしは、弁当…。
 給食を楽しそうに、食べる子達が羨ましかった。
 「(給食いいなぁ…。)
(あたしも、食べてみたい…。)」
 そんなことを思っていた、ある日、授業中に、あたしは倒れた。
 そして、救急車で、病院に運ばれた。
 診断されたのは、壊血症。
 ビタミンC欠乏症ともいい、長期にわたって、ビタミンCが、極端に足りない状態が、続くと起こる病気だと言われた。
 幸い、ビタミンCを投与すれば、すぐに治る病気だとも言われ、あたしは、すぐに、ビタミンCを投与された。