千夏は、剣道の才能があった。足さばきも、素振りも、構えも、全てが完璧で先生が驚くほど。防具をつけ試合をすれば、猫のように俊敏な動きで、猛獣のような強さで敵を圧倒していく。あっという間に、千夏は強い選手として有名になった。

それに比べ、僕は落ちこぼれだ。試合をすれば相手の気迫に負けて一本、また一本と取られてしまう。

周りはいつも千夏に目を向けていて、僕は取り残されていた。どれだけ練習しても無駄で嫌になっていく。

「……もうやめた」

中学生になった頃、負けてばかりでとうとう我慢できなくなり、僕は部活の試合を放棄してしまった。剣道を習っているからという理由で入部させられたけど、みんなの期待に応えることができなくて辛かったんだ。

「千夏はあんなに強いのにな……」

そんな風に言われ、嫌だった。剣道着のまま会場を飛び出し、会場の外でただ空を見上げる。雲一つない綺麗な青空だ。

「何やってんのよ、こんなとこで!」

何時間も空を見上げていた僕は、怒った声に意識を現実に戻す。どれほどボウっとしていたんだろう。