君ってさいつも悩んでるよね
まあ、僕にゴハンをくれるなら別にどうでもいいけどね
※
僕は猫だ、名前はコジロー。今年で11歳になる。
なに?じいさんだって?
人の…いや猫の年齢にツッコミをいれるなんてナンセンスだぜ。
「小次郎、夕ごはんだよ」
「ニャー」
このゴハンを持ってきたのは僕の飼い主の柚月(ゆづき)だ。
夕ごはんだよって言ってるけど柚月はさっき起きたばかりだ。
ていうか、柚月はいつも朝に眠って夕方に起きる生活を送ってる。
まったく僕と一緒じゃないか。
でも、柚月のママはいつも朝に起きて忙しく働きまわってるのにふしぎだね。
目の前に置かれた緑の皿に缶詰のごはんが入っている
今日はあんまり、おなかはすいてないから半分だけごはんを食べる。
「猫はいいよね、外に出なくてもいいんだもん」
あーあ、またそれかよ。
柚月はいつもそれを言う。
実は僕は拾い猫だ
前の飼い主に「映えないから」と言われて捨てられた
おなかがすいて、なんでもいいから食べたくて
鳴いてたら一人の女の子が僕をだっこした。
それが柚月だった。
そのときの柚月とママの言い争いったらひどかったぜ
ママなんて「元の場所に戻してきなさい」って物凄い剣幕で捲し立てるし
柚月は僕を強く抱き締めて「かうったらかう!」ってごねてるし
結局、パパが間に入って、僕はこの家の猫になった
僕の体が大きくなって柚月よりも年上になったころ
柚月はチューガクセイというものになった。
ショウガクセイのころはたくさん遊んでくれたけど
チューガクセイになったとたん、柚月は僕にごはんをくれる以外は
部屋に入って過ごすことが多くなった。
ママが柚月の部屋の前にたって泣きそうな顔をしていた。
「ニャー」
僕はママの足に体をすりつける。
ママが僕の頭を優しくなでる。
暖かい水滴が見上げた僕の顔に落ちた。
※
台所にいた小さな虫を追いかけて遊んでいると廊下にでた
走って虫を追い続けると見失ってしまった。
パパとママの部屋から話し声が聞こえた。
「柚月はまだ部屋にいるのか?」
「うん、夕ごはんだって呼んでも出てこなくて…でも、部屋の前にごはんを置いてたらなくなってるから食べてると思う」
「…もう、中3だぞ?進路はどうする?中学になってほとんど登校してないじゃないか」
「そんなこと言っても、今の状態で高校に進学させたって行けるかどうか…」
「通信制も考えたほうがいいかな」
なんだか、僕にはよく分からない話をしている。
コーコー?ツーシンセー?人間って色んなものになるよなあ。
その点、猫はずっと猫のままでいられるから楽だ。
パパとママが寝静まった夜中、これが僕の時間だ。
ヤコウセイである猫の本能は押さえきれない。
「よし!遊ぶぞ!」という気持ちをこめて壁で爪をとぐ。
「小次郎、爪をとぐなら爪研ぎ!」
なんだ、柚月か。
柚月はいつもこの時間に部屋から出てくる。
僕の大嫌いなおふろに入ったり
台所に置いてあるパンやお菓子をいくつかとって部屋に戻る。
「ニャー」
爪をとぐくらいなんだよ!
柚月だって、こんな時間にお菓子なんて食べてたら太るぞ!
僕は抗議をしてみる。
僕の頭に手をおいて柚月はしゃがむ
覗きこんでくる顔はなんだか、気まずそうだ。
「今日もママ、部屋の前で私を呼んでたよね」
そうだぞ、オヤフコウモノ!
「私って親不孝ものだよね」
分かってるじゃないか
「ニャー」
「そうだって言いたいの?猫って人間に対して容赦ないよね」
猫は人間を支配する存在だからね。
「なんかバカみたいだよね。悪口を言われただけで学校に行けなくなるなんて…」
いじめられてるのか?ひっかいちゃえばいいのに。
「学校に行っても誰も話しかけてくれないの
友達だって思ってた子も私から離れちゃった…なんか学校に居づらいんだよね」
あー、あれか、ボス猫に歯向かったら
縄張りから追い出されるみたいな、あるよ、猫にもそんな風潮。
「もう、中学だって終わりなんだよね、私これからどうしたらいいんだろ」
柚月の声がしゃがれていた。
柚月が僕をだっこしてギュッと抱きしめた。
ほんとは、だっこは嫌いだけどがまんしてやるか。
やがて、春がやってきて
柚月はツーシンセーというものに入った。
日曜日だけ、ガッコウというところにトーコーしているらしい。
ガッコウというところにいく前の日の柚月はなぜかピリピリしている。
しょーがないなあ。
僕は柚月の前で寝転んでお腹を見せた
ほーら、さわっていいぞ
猫のおなかをさわれるなんて特別なことなんだからな
「猫っていいよねー、のんきで」
柚月は苦笑いしながら僕のおなかをなでる。
柚月はガッコウというところに行く日以外は
僕が遊んでやったり
なんと、部屋から出て家のリビングのソファに座ってベンキョーをしていることも増えた。
ママはホッとした顔をしている。
ある日、ソファに座ってスマホというものをさわってるときがあった
青の画面に緑色の吹き出しが見える「ライン」がなんとか言っていた。
友達とラインというものをしているとママと話しているのを聞いた
僕によく分からないが、友達がいるのはいいことだな!
僕の心配事が少しへったよ!
何度も季節が流れていく
柚月はダイガクセーというものになった
コーコーセイの頃とは違って
柚月はダイガクというところから帰ると暗い顔をしている。
部屋で一人でため息をついている
まったく、どうしたっていうんだ?
ラインというものをすることもへったし
コーコーセイの頃の友達とはもうやり取りしてないのかな?
※
「大学はもう行きたくない」
「バカ言わないの、せっかく受かったのに」
柚月とママが言い争っていた
「どうして行きたくないなんて言うんだ?なにかあったのか?」
パパが心配そうに聞く。
「……わかんない…」
「え?」
「わかんないよ、私だって……」
柚月は拳を握っていた、手が震えていた
パパとママに背をむけて部屋へ向かう
僕は柚月のあとを追った。