教室の戸口の前で、大きく深呼吸をひとつする。

クラス替えのあった新学期くらい、もしくはそれ以上に緊張しているかもしれない。

意を決して開きっぱなしになっている戸口から教室に入ると、今一番意識している人は既に席についていた。


……望くん。


出来るなら土曜日にあったことは、夢であってほしい。
登校してきたあたしに、いつも通り「おはよ」って声をかけてほしい。

そんなことを考えながら、あたしは恐る恐る自分の席に手をかけた。


だけどそんなの、都合のいい考えだと思い知る。


望くんは挨拶どころか、あたしを避けるように席を立ち、教室を出て行った。


やっぱりそう……だよね。

分かってはいたけれど、それでもあからさまな拒絶にショックを受けずにはいられない。


やばいな……。

こんな所で泣くわけにはいかないのに、じわじわと込み上げてくる感情。それを必死に堪えて席に着く……と、


「おはよ」


後ろから茜ちゃんに声をかけられた。