「ううん、もう終わるから……。望くん、家の手伝いあるんでしょ? 気にしないで先に帰っていいよ」


ふるふると顔を横に振りながら、あたしが告げる。すると、


「じゃあ……ごめん」

「ううん、気にしないで」


腕時計をちらりと見て、申し訳なさそうに渋い顔をしながら、望くんが謝った。


家の用事、お手伝いが何なのかあたしは詳しく知らないけれど、最近とても忙しそう。

更には昨日のこともあって、ちょっとだけ寂しい気持ちになる……けど。


切り替えるように笑顔を浮かべ、「お疲れさま」と手を振ろうとした、その時だった。


「ひめちゃん!」


遠くの方から大きく名前を呼ばれて、ドキッと鼓動が跳ねる。


あたしを『ひめちゃん』って呼ぶ人は……隼人先輩。


先輩は少し急いだ様子で、あっという間にあたし達の前まで駆け寄ってきた。


「ひめちゃん、悪いんだけど先生が呼んでるから、ちょっと来てもらっていい?」

「あ、はい……!」


ベンチから立ち上がったあたしは、そのまま先輩の方へと進もうとした。

だけど──。