こ、これは……。


真っ直ぐ見つめられ、少し濡れたようにも見える望くんの瞳に息を飲む。

急にスローになったみたいに感じる空気。

そのくせ、今起こっていること、これから起こるだろうことを深く考える余裕はない。


──顔が熱い。

繋がれたままの手が、微かに震える。


ゆっくりと近付いてくる望くんの顔に、あたしはぎゅっと強く目を閉じる。

──だけど。


「……ごめん」


聞こえてきた声にゆっくりと目を開ければ、近付いてきていたはずの望くんの顔は離れていた。


「え……」


肩の力が一気に抜けたあたしは、そのまま小さく声を漏らす。


今のは絶対にそういう雰囲気だった。

なのに、どうして……『ごめん』なの……?


聞きたいのに、身体は固まったままで口も動かない。

戸惑うあたしをよそに、望くんは「帰ろう」と、少し寂しげに微笑んで。


ここまで繋いできたあたしの手を、からかわれても離さなかったあたしの手を……するりと、滑るように離した。