「待ってください」


隼人先輩の声を遮って止めたのは、望くん。

どうしたんだろうと隣を見れば、


「ひとつだけ訂正させてください。あの時……倒れかけたのを支えようとしたんじゃないんです」

「え……」

「菜子は作業してたのに、俺が一方的に抱きしめました」

「なっ!?」


望くんの発言に、いちいち声を上げてしまったのは、隼人先輩じゃなくあたしだ。

だって、何を言うのかと思えば、とんでもないこと。

せっかく何のお咎めもなく、むしろ先輩の話は前向きに評価してくれるものだったのに……。


「……なんでわざわざそれを?」

「嘘ついてるのは嫌だったんで」


アワアワと焦るあたしをよそに、冷静に問いかける先輩と、真っ直ぐ答える望くん。

確かに、評価してくれているからこそ、嘘をついている罪悪感に苛まれるのも分からないでもない……だけど。


「そっか……部活中にそれは褒められた行為じゃないな」


少し困った顔をしながら、そう告げる隼人先輩。


「いえっ、違うんで……」


あたしは咄嗟に望くんを庇おうとしたけれど、それを止めるかのように望くんが一歩前に出た。


「はい、自分も悪かったと思います。ペナルティーがあれば、ちゃんと受けようと思います。だから……」


望くんは一瞬言葉を詰まらせる。そして、


「先輩も嘘つかずに正直に言ってもらっていいですか?」


まるで的を射るような望くんの声が、部室内に響く。