「何で? 別にそんなこと頼んでない」

「そりゃあ頼まれてはないけど。松永はみずほのこと好きなんだし、いいじゃん」

「いいじゃんって……」

松永君が私のことを好きだからという理由だけで、香がこんなことをするとは思えない。
だけど今は、それ以上に香に伝えたいことがある。


「……香。私ね、松永君じゃなくて、篠原君のことが……気になるの」

これは決して、だから篠原君と上手くいくように仕向けてほしいというお願いではない。
篠原君とどうなりたいかは、自分でもよく分からない。
それでも、松永君と無理にくっつけようとしてくるのはやめてほしかったから、ちゃんとそう伝えた。

しかし。


「篠原は駄目。あいつはみずほに相応しくないから」

という、謎の意見をぶつけてくる。


「え、何……? どういうこと?」

「そのままの意味よ。篠原が小学生の頃、みずほに何したか、まさか忘れた訳じゃないでしょ⁉︎」

いつも落ち着いている彼女らしくなく、声を荒げる香。
篠原君と朝日君が同一人物だったということは、まだ香には伝えていなかったけれど、香も知っていたんだ……。


「みずほ、篠原にいじめられて、毎日泣いてたじゃない。そんな篠原が気になるなんて、どうかしてるよ!」

「どうかしてるって、そんな言い方……」

香が私のことを心配してくれているのは分かるのだけれど、それでも納得いかない。


「酷いことしたって言うなら、松永君も同じじゃない。高校に入学してすぐ、私のこと騙して告白してきたんだから」