その日、いつも通りの時間に部活が終わり、体育館で結先輩と別れてから、体育館の鍵を返しに行った。

鍵を返してから玄関へ向かうと、そこには一人の人物が。


「篠原君?」

声を掛けると、彼もこちらに顔を向けて「……おう」と短く返事した。


「どうしたの? 誰か待ってるの?」

上靴を履き替えながらそう尋ねると、彼は少しの沈黙の後。


「……一緒に帰らないか?」


と、誘ってきた。



「え?」

「あ、いや、嫌ならいいんだけど……」

「いっ、嫌じゃないよ!」

正直、全く予想していなかった展開に驚きを隠せないのは事実だけれど、誘われて嬉しかったのまた、事実だった。


……夏祭りの日に、篠原君から告白……とまではいかないけれど、私のことが気になる存在であることを伝えられた。

その気持ちには、その場で応えることは出来なかった。保留、と言うよりは、お断りした雰囲気だ。
篠原君も、その件についてそれ以上何か言ってきたり、求めてきたりすることはない。
私達の関係は、あの夏祭りの日から特に変わりはない。
それでも……不意にこんな風に誘われると、私の心臓はドキドキと脈打ち始め、ふわふわした感覚に陥る。

高鳴る心臓を抑えようと冷静を装い、靴を履き替えると篠原君の隣に立った。
しかし、その瞬間。


「みーずほっ。一緒に帰ろっ」

と。突然松永君が後ろからやって来て、しかも私の肩に手を回してきた。