「篠原君も、誰かを傷付けたことがあるの?」

「……昔、とある女の子を」

「……そうなんだ」


何があったか分からないけれど、篠原君の表情がとても暗いから、それ以上深入りしてはいけない気がした。



「……まだ答えは出ないけど、話聞いてもらったら少しスッキリしたよ。ありがとう」

そう告げると、篠原君はまたしても「……別に」と短い返事。

口数が少なくて、第一印象は少し怖かった篠原君だけど……本当は凄く優しい人。

そこに加えて、なぜか昔から知っているような懐かしい感覚がするから、今やすっかり、彼に対しては抵抗感がほとんどない。

私なんかに気に入られても篠原君は嬉しくないだろうけど、私はお弁当箱をずいっと彼の前に差し出した。


「あの、アレルギーとかなかったら、良かったら卵焼きどうぞ」

「え?」

「お昼、パン一つじゃ放課後お腹空くでしょ? 私ね、得意なことあんまりないんだけど、料理は少し自信あるんだ。この卵焼きとか」

そう告げると、篠原君は「……じゃあ」と言って、卵焼きを一つ指で掴み、口の中に放り込んだ。


「どうかな?」

「……すっげぇ美味い」

「良かった!」


……不思議。話していたら、何だか前向きな気持ちになれてきた。



「……じゃあ、俺は昼練行くわ」

卵焼きを食べ終えた篠原君が、スッと腰を上げる。

ちなみに昼練というのは、正式な部活動ではなく、一部の部員達が昼休みに自主的に行なっている練習のこと。


「うん、話聞いてくれてありがとう」

「俺は別に何も……寧ろ卵焼きもらっただけになっちまったけど」

「そんなことないよ。……あ」

歩きかけた篠原君を、つい呼び止めてしまった。

篠原君が、足を止めて顔だけ振り返る。