「ま、松永君⁉︎」

いきなりのことに私も動揺してしまうも、とりあえず「頭、上げて」と伝える。

ゆっくりと顔を上げた彼は、やっぱり真剣な顔をして私と目を合わせる。


そして。



「この間は……本当に失礼なことをしたと思ってる。正直、軽いノリだった。みずほなら、笑って許してくれる気がしてた。そんな訳ないのに」


……私は、結先輩みたいに〝仕方ない〟で割り切ることは出来なかった。
でも……もしかしたらだけど、松永君のことを好きになっていなかったらここまで引きずってはいなかったのかもしれない……。



「……俺、みずほと話せなくなるの嫌でさ。許してくれないかな」


許してほしいと言われ、先ほどの結先輩からの言葉を思い出す。


『無理に許さなくていいと思う』


私は……絶対に許さないとか、一生許さないとか、そこまでのことを言うつもりはない。


だけど……



「……うん。もうそこまで傷付いてる訳じゃないから、会話とかはするようにするよ」

「ほんと⁉︎ じゃあ今まで通り、たくさん喋って、一緒に飯食ってーー」

「……それは無理」

「え?」

「そんな風に仲良くするのは無理だと思う……。じゃあ、また明日……」

小さく頭を下げ、松永君を横切って生徒玄関を後にした。




薄暗い帰り道、ぼんやりと松永君のことを考える。



これで、いいんだよね。


松永君は、普通のクラスメイト。

普通に会話をする、普通のクラスメイト。


それで、いいんだよね……。