その日、松永君は何度か私に声を掛けようとしてきたけれど……私はそれを、朝のようにずっと避けてしまっていた。


事情を知る篠原君も、そんな私に話しかけてくることはなかったのだけれど……


放課後になり、教室を出て廊下を歩いていると、後ろから篠原君に声をかけられ、足を止める。



「篠原君……?」

「……お前、部活行くの?」

「え?」

私が手に持っているジャージの袋に視線を向けながら、篠原君がそう聞いてくる。


「……無理しなくてもいいと思うぞ」

相変わらず言い方は素っ気ないのに、それも含めて彼の優しさだって、今は知っている。

心配してくれて、本当に有難いと感じる。


でも。


「……大丈夫」


本当は、少し怖い。
松永君からどう思われるかとか、昨日の先輩達にまた笑われるかな、とか。不安を考え出したらキリがない。

だけど。


「……私、バスケ部に入部したのは松永君から誘われたのがきっかけだったけど、マネージャーをやるって決めたのは、それだけが理由じゃなかったから」


友達を作りたい。
人見知りで控えめな私だけど……何もしなければ現実は変わらないって思ったから。


そして勿論、マネージャーの仕事も一生懸命頑張るって、決めたから。


この目標や決意を、失恋くらいで放り出したらダメだって思った。


でも、今までの私だったらきっと自分を守るために部活には行かなかったと思う。


こんなに前向きな気持ちで部活に向かえるのは……



「こう思えるのは、篠原君のお陰だよ」



篠原君がこうやって気にかけてくれるから。