◯梓side(高校一年生、春)
ーー小学校三年生の頃。ひと気の少ない放課後の廊下で、うずくまって泣いてる女子がいた。
「……どうした?」
一応声をかけてみると、しゃがみ込んだまま振り返ったのは、同じクラスの桜井みずほだった。
物静かで、いつも幼馴染みとやらの天野香にべったりしていた桜井と俺は、それまでろくに会話したこともなかった。
桜井は、泣きながら俺に訴えかけてきた。
「お腹が痛いの」
なるほど。それでうずくまってたのか。
「仕方ないな」
このまま廊下で倒れられても後味悪いし、仕方なく桜井をおんぶして保健室まで連れていった。
背負った桜井の身体はめちゃくちゃ軽くて驚いた記憶がある。
保健室には先生はいなくて、〝十分ほどで戻ります〟という札が入り口の戸にぶら下がっていた。
「先生すぐ戻るみたいだから、それまでベッドで寝てろよ」
俺がそう言うと、桜井は「うん」と答えてベッドに横たわり、「さっきより凄く良くなってきた」と答えた。
「ふぅん。良かったな」
そう言えばさっきより顔色も良いし、これなら俺は戻っても大丈夫だろうと保健室を後にしようとした、その時。
「朝日君。ありがとう」
さっきまで泣いてた桜井が、笑顔でそう伝えてくれた。
……別に大したことはしてないし、同じクラスの女子に一言礼を言われたってだけだ。
それなのに。
たったそれだけのことで、当時の俺は初恋を知ってしまった。
ーー小学校三年生の頃。ひと気の少ない放課後の廊下で、うずくまって泣いてる女子がいた。
「……どうした?」
一応声をかけてみると、しゃがみ込んだまま振り返ったのは、同じクラスの桜井みずほだった。
物静かで、いつも幼馴染みとやらの天野香にべったりしていた桜井と俺は、それまでろくに会話したこともなかった。
桜井は、泣きながら俺に訴えかけてきた。
「お腹が痛いの」
なるほど。それでうずくまってたのか。
「仕方ないな」
このまま廊下で倒れられても後味悪いし、仕方なく桜井をおんぶして保健室まで連れていった。
背負った桜井の身体はめちゃくちゃ軽くて驚いた記憶がある。
保健室には先生はいなくて、〝十分ほどで戻ります〟という札が入り口の戸にぶら下がっていた。
「先生すぐ戻るみたいだから、それまでベッドで寝てろよ」
俺がそう言うと、桜井は「うん」と答えてベッドに横たわり、「さっきより凄く良くなってきた」と答えた。
「ふぅん。良かったな」
そう言えばさっきより顔色も良いし、これなら俺は戻っても大丈夫だろうと保健室を後にしようとした、その時。
「朝日君。ありがとう」
さっきまで泣いてた桜井が、笑顔でそう伝えてくれた。
……別に大したことはしてないし、同じクラスの女子に一言礼を言われたってだけだ。
それなのに。
たったそれだけのことで、当時の俺は初恋を知ってしまった。