陰口や噂話をされながらの体育の時間は苦痛だった。とにかく、早く終われと念じていた。

授業終了のチャイムが鳴り、ようやく教室に戻れる……と一息ついたのも束の間。


「ちょっといい?」


何人かの女子に声をかけられ、囲まれ、そのまま体育館の裏に連れてこられた。



「あのさあ、あんた。地味女子のくせに調子乗らないでくれる?」

「うちのクラスの子に聞いたんだけど、あんた、松永君のことも篠原君のことも弄んでるんだってね」


うちのクラスの子、というのは、噂を流したあの女の子のことだろう。
あの子は今、ここにはいない。
私は既に、あの子がいない場所でもこうして色んな子に恨まれる対象になっているんだ、と改めて思い知る。



「も、弄んでなんて……」

「松永君も篠原君も、クラスに女子があんた一人だから気を遣って話しかけてあげてるだけだっつの」

「そうよ。それを勘違いして、バスケ部のマネージャーにまでなって、バカじゃないの?」


聞く耳を持たない彼女達は、そのままじりじりと私に近付く。


そして、真ん中にいた女の子の右手に、いつの間にか水の入ったバケツが持たれていることに気付く。

ハッとして逃げようとするも、他の女の子達に腕を掴まれ、動けなくなる。


そのまま、頭から水をかけられてしまった。



「のぼせてる頭を冷やしてあげたんだよ。感謝してよね。ちなみにこのこと篠原君達にチクったら、もっと酷い目に遭わせるから」


冷たい口調でそう言うと、その子は空になったバケツを放り投げる。それと同時に、女の子達は皆で笑いながら教室の方へと戻っていった。