それから、松永君とはそれまで通り普通に話せるようになった。
いや、普通に話してくれている、という表現が正しいのかもしれない……。
改めて、松永君には感謝の気持ちでいっぱいだった。



その日の放課後の部活が終わり、更衣室で着替えてから体育館の最終チェックをする。

居残り練習している人はいない、更衣室も誰もいない、トイレも誰もいない。


最後に用具入れに誰もいないことを確認しようと扉を開けた時、「桜井さん」と後ろから誰かに名前を呼ばれた。

振り返ると、そこにいたのは確か隣のクラスの女の子だった。


「は、はい」

その子はにっこりと笑って私を見つめている。
笑顔なのに、どこか高圧的なオーラを感じ、思わず一歩後退ってしまった。


真っ暗で艶やかなセミロングの髪の彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「桜井さんてさあ、案外男好きだよね」

「え?」

何を言われているのかよく分からないけれど、この人は私に悪意がある、ということは即座に理解した。


「えっと……?」

「女子が一人きりのクラスにいるし、男バスのマネージャーなんかやってるし、無口な篠原君ともよく話してるし。それにこの間、階段の踊り場で松永君と二人きりで親密そうに話してた」


この間松永君と……というのは、松永君と仲直りした時のことだろう。辺りに人はいないと思っていたけれど、この人に見られていたんだ。

とは言え、女子が一人のクラスにいるのは私が望んだことではないし、男バスのマネージャーは誘ってもらったからだし、篠原君と話しているのは彼のことが気になっているからだし……男好きなどと言われてショックだ。