彼の表情は、切なげではあったけれど先日見たそれより、優しく微笑んでいた。


「困らせてごめん。みずほが困るのを分かってて、わざとあんなこと言った」

やっぱり、香の言っていた通りわざとだったんだ、とは思ったけれど、不思議と怒りなどはなかった。


「と言っても、本音でもあったんだぜ。みずほと全く話さなくなれば、みずほが篠原とくっついてもダメージが少ないかなと思った」

「……うん」

「でも、もう無茶な選択を迫るのはやめる。友達に戻ろう」

「……本当?」

「ああ。俺はもう充分、満足したから」


満足? と聞き返すと、彼はゆっくりと私に近付いてきた。

そして、階段を上がって私の正面に立つと、右手の指で私の目元に滲む涙を拭って。


「泣くほど俺との関係について考えてくれたってだけで、満足ってこと」


そう言うと、彼は再び笑った。
切なげでも苦しそうでもない、私が好きないつもの明るい彼の笑顔だった。



「篠原と上手くいくといいな。応援してる」

「……うん。ありがとう」


やっぱり、松永君は私にとって大切な友達だな。また話せるようになって、本当に良かったーー。