「ふ、風鈴は昔は違ったんですか?」


思い切り鼻水をかんだ後、そう聞いてみた。
するとおじさんは立ち上がり、タンスのひとつを開けて、何かを取り出す。


「これだよ、昔標様がつけていたのは。僕が標様に手作りの新しい風鈴をあげた時、お礼だって言ってくれたんだ。今でも大事に保管しておりますよ、標様」


最後は神様に向かって微笑んでいた。神様は「あーもーいらぬいらぬー!」と言いながら私が手に持つ風鈴を奪おうとしてくる。


その風鈴は青銅らしきものでできていて、今のガラス製とは全く違った。

少し揺らしてみても、鈍く重い音がする。


最先端好きな神様にとっては、今つけているガラスの風鈴は宝物だろう。



「風鈴は、中国から伝わったらしいんだけど、当時は風の向きや音の鳴り方で物事の吉凶を占うものとして使われていたんだって」


おじさんが説明をする。

そうか、道標の神様だから、風鈴を付けているんだ。今まで神様だからという理由で気にしないでいたが、よくよく考えてみれば耳に風鈴なんて変すぎる。


「まあ、この風鈴は感謝している。前のものも重いと思ったことは無いが、鈍い音が耳元で鳴り続けていると、動きたくなくなるからな」


フッと笑って、照れを隠すように頭をかいた。白い髪がふわりと揺れる。


「その髪色もなにか理由があるんですか?」


「ああ、白は穢れの無い色だからじゃないか?
まあそれはさておき、さあ、そろそろ行こう!さっき飲食店を見てきたが、美味そうなものがあったのだ!」


また声の調子を上げ、私の腕を引っ張る。


さっきは傍に隠れて聞いていたのかと思ったけれど、本当に外に出ていたんだ。


私は湯呑みをおじさんに渡し、お礼を言って外に出る。


神様も、「ありがとう敦史!また頼む!」と言い放ってお店をあとにした。