「あ、あの……。人間はここに住むことを決めても、時の流れは普通の人と同じなんですか…?」


おじさんは「やっぱりそう思うよなぁ」と頭を掻きながら言う。


「お嬢さんの言う通り、僕の時間はこっちにいても変わらず進む。
いつかは死ぬんだ。その時は、人の世界のこの山の中で、いつしか遺骨で見つかるらしい。
行方不明になっているはずだから、山の中で遭難した人の遺体が見つかりました、って」


おじさんは笑っていた。それら全てを受け入れた上でここにいるんだ、と言っている気がした。


「そうだ。敦史はあくまで、神隠しにあった人間だからな。あ、そういえばな、これは敦史が作ってくれたんだぞ!」


いつの間にか、入口の前に腕を組んで立っていた神様。涙でぐちゃぐちゃの私に、耳についた風鈴を見せてくる。


「そう、僕は標様に救われたんです。ここで父の仕事であった風鈴を作れるようにして下さった。

高校生の頃に作ったっきりで、作り方を思い出すのも大変だったけれど、その時も標様はさりげなく支えてくださったんだ。
そのお礼に、昔の風鈴を今風にしてプレゼントしたんだよ」



神様は本当に照れているのか、ちょっとだけ口角を上げて俯いている。

その感情を表したように、イヤリングが音を弾かせた。