「やっぱり変か?溺愛を実践してみたんだけど…難しいな。」

主任は何か考え込むように腕を組み下を向く。

「溺愛を実践って…私で練習したんですか?」

「練習…そうか、やっぱり溺愛の実践練習が必要だな。なぁ赤崎。」

主任はキラキラした顔で私を見る。

「無理です。」

「まだ何も言ってないだろ。」

確かに何も言われてないけど、何となく主任の言おうとしている事が分かった。

「何も言わなくていいですから。」

「頼む。赤崎で溺愛の実践練習をさせてくれ。」

私は首を大きく横に振る。いくら恋愛感情がないとはいえ、こんなイケメンに溺愛されたらドキドキしすぎていくつ心臓があっても足りませんから。そもそも溺愛に練習ってしないでしょ、普通。

そうか、分かった。

前から薄々感じてはいたけど、主任(この人)は何に対しても真面目過ぎるんだ。主任なら女性に一声かけるだけで彼女が出来るのに、真面目過ぎてそれも出来ないのかも。なんて勿体無い性格だ。

「赤崎の好きなもの奢るから。」

そんなに必死に頼まれたらなんか断るのに罪悪感が生まれるじゃない。

「…高くつきますよ?」

結局溺愛の実践練習とやらに付き合う事にした。

「助かるよ。それで赤崎にもう一つお願いがあるんだけど。」

「何ですか?」

「もし嫌でなければ…連絡先を交換しないか?」

「はい、いいですよ。」

私は携帯を取り出し連絡先を交換する準備をする。

「そんなに簡単に連絡先を教えていいのか!?」

「自分で聞いておいて…。だって別に断る理由もないし、連絡先を知ってた方が何かと都合がいいと思いますし。」

私はそう言いながら携帯をポチポチして主任の携帯番号を登録した。