「でも美織と平国主任がねぇ。」

「まだ疑ってるの?平国主任にお似合いの社長令嬢じゃなくてすみませんねぇって、もう別れたんだけどね。」

「それって美織が勝手に別れようって言っただけで、平国主任の返事は聞いてないんでしょ?」

「そ、そうだけど…元彼と会ってキスしたんだから許せないでしょう?」

蓮さん、怒ってるだろうな。そう思うと何だか泣きそうになった。

「今日はこのくらいにして、続きはまた明日って事で。早めに出社できる?」

蓮さんの事を思い出して落ち込んでいる私に気づいたのか、裕香は話を中断してくれた。

「うん、大丈夫。」

「じゃあ明日の朝、会社屋上で話しよう。」

私達は居酒屋を出て、それぞれ家に帰った。マンションに着き、自分の部屋に入る前に蓮さんの部屋の方を見る。蓮さんに別れを告げてから何度も携帯に連絡は来たけど、私から返信する事はなかった。

私はどうしていいか分からなくなっていた。逃げても時間が解決してくれるわけじゃないのに。

そう思いながら静かに玄関のドアを開けてそっと閉めた。

次の日の朝、私は裕香との約束どおり早めに出社した。

「裕香おはよう。」

「おはよう。昨日はちゃんと寝れた?」

「うん、割と寝れた。」

更衣室で着替えながら答える。本当は蓮さんの事を考えていた事もありなかなか寝付けなかったのだけど、一昨日よりは寝た気はする。

着替え終わった私達は、自販機で温かいコーヒーを買って屋上に向かった。屋上のドアを開けると、冷んやりとした風が顔にあたり思わず目をぎゅっと閉じた。

「はぁ、やっぱり寒いね〜。」

話す度に声と一緒に白い息が漏れる。手に持っているコーヒーもあっという間に冷めそうだ。

「でもこの時期、屋上に来る人なんていないでしょ?秘密の話をするなら屋上しかないわ。」

裕香は長い髪をなびかせながらニッコリとした。