「冗談よ。でも不倫以外で恋愛を隠す理由なんて思いつかないなぁ。」

裕香は難題を解くように難しい顔をしながら考え込む。

「裕香の言うとおり社内恋愛してた。って言っても部署が違うから殆ど彼と会う事はないし、相手にも私との付き合いを口止めしてたから分からないと思う。」

「そこまで言うんだから、もちろん相手を教えてくれるんでしょ?」

「相手は…営業企画課の人よ。」

「営業企画課?高成さん?」

何故だか私達は顔を近づけ小声で話す。

「違う。高成さんの告白は断ったってば。答えは高成さんの上司よ。」

「え…高成さんの上司って、まさか…課長?やっぱり不倫…。」

「違うから。もう一人いるでしょ?主任よ、主任。」

「あー主任の方ね。ビックリした…って、営業企画課の主任ってひっ平国主任!?」

驚いた様子の裕香は、勢いよくその場に立ち上がって私をガン見してきた。あの噂の蓮さんと付き合ってるなんて聞いたらそりゃ驚くよね。裕香の反応が少し面白かった。

「…冗談?」

少し冷静になった裕香はそっと座り、一呼吸してから真顔で私に聞いてきた。

「いや本当。こんな嘘つくはずないでしょ?」

「そうよね…取り敢えず杉村さんの事は置いといて、平国主任との話を詳しく聞かせてもらいましょうか。」

「ゆ、裕香、顔怖いから。」

私は蓮さんとの事を話し始めた。
引っ越した先のお隣さんが蓮さんだった事、ご飯を食べながら話をするようになった事、気がついたら惹かれあっていた事…。

「平国主任、本当にタワーマンションに住んでないんだ。」

「あはは、そこ?」

裕香に蓮さんとの話をしたら、何だか心が少し軽くなった。