軽く触れた杉村さんの唇はすぐに私の唇から離れた。

でも何で?
何故私はキスされた?

一瞬の出来事に、私は怒りと悔しさが込み上がるものの上手く言葉が出てこない。追い討ちをかけるように冷たい風が私を打ち付ける。

「美織と別れてから色んな女と付き合ったけどやっぱり美織がいいわ。今度は本気だから…俺たちやり直そう。」

今度は…か。

勝手にキスしたり、またやり直そうだなんて調子の良い事言ったり…相変わらず自分勝手なんだから。

「お断りします。私は杉村さんとは付き合えません。」

私は杉村さんを睨みつけるように自分の気持ちをはっきりと言った。

「はっきり言うなぁ。もしかして彼氏いるのか?」

「 いるけど。」

「ふーん。まぁ関係ないけどね。」

杉村さんは不敵な笑みを浮かべ、私の肩をポンとしてそのまま帰っていった。

今更何なの…そう思いながら私はゆっくりと駅に向かって歩き出す。それから電車に乗って座席に座り、電車に揺られながら杉村さんと付き合っていた頃を思い出した。

杉村さんとの出会いは1年くらい前、会社の社員食堂で初めて会った。隣に座ってきて、内容は覚えてないけどやたら話しかけられた記憶がある。

彼の第一印象は、茶髪でよく喋るというのもありチャラ系なイメージで少し苦手なタイプでもあった。昼の休憩になると、他にも席は空いているのに毎日のように私の隣に座っては話をしてきた。

それがしばらく続くと、デートに誘われるようになった。その頃の私は彼氏もいなかったし、彼に対して好意を持ち始めていたので誘いに乗った。

デートを重ねるうちに、第一印象のチャラ系イメージはなくなり本気で彼に惹かれて私達は付き合うようになった。彼との時間は本当に楽しくて、上手く喋る話術は営業に向いているなと今でも思う。

この楽しい時間がずっと続くといいなと思っていたけど、そんな願いも虚しく結局半年くらいで私達は別れる事になる。