「なんか紗江に怒られるの、クセになりそー」

さっきまでの賑やかさを名残惜しく感じる、静かな車内。遊佐がククッと喉で笑いをくぐもらせた。

「まあ寒いのも暑いのもメンドウだからさ、5月でどう?」

「どうってなにが?」

あたしは、きょとんと。

「ナニって傷付くなー、式に決まってんだろ」

「エッ?!」

「ゴールデンウィーク明けで押さえといたから」

思いきり。目の前の男を凝視したまま固まる。
遊佐はあたしの左手を取ると、指輪がはまってる薬指に色っぽい口付けを落とした。

「待たせてゴメンな。今度こそオレの隣で花嫁になって、宮子」

「っっ、遊佐ぁ・・・っ」

視界が涙でぼやけたと思ったら。遊佐の胸に頭ごと抱き込まれてた。
パーカーの上に羽織ってるネルシャツにどんどん吸い込まれてく雫。

「いいよ泣きな。・・・泣き顔も笑ってる顔も怒ってるのも、オマエの人生丸ごと全部、オレのもんだから」





あの事故から。
あたし達は苦しんで苦しんで。
ココロを折り合うほど、苦しんだ。


貫きたいものを、どうしても譲れなくて。