『・・・北原千也?』

吐き捨てるみたいな舌打ちが聞こえた。

『カオで釣られたってんならマジで殺すよ、オマエ。とにかくオレが行くまでイイ子にしてな』 

「誘拐されるワケじゃないの、ちゃんと戻るから大丈夫。あたしを無事に帰さなかったらどうなるかくらいバカでも分かんのに、そんなリスク冒すなんてあり得ないでしょ。あたしは高津さんの敵じゃないんだし、話があるなら会ってきっちり終わらせたいだけだよ・・・!」

自分の正義を信じてそう言い切る。

一瞬黙った真の。気配が変わった。・・・気がした。

『・・・オレが行くなって言ってんだよ、宮子』

怒りのような悲しみのような。うねりが沈んだ静かな声だった。

『それでもオマエは行くの? 宮子が心配でこの脚さえ動けば、今すぐテメェで飛んできたいのを必死にガマンしてるオレはどーでもいいの? こんな時でも俊哉に助けてもらわなきゃどうにもなんなくて、口惜しくてガマンするしかねーオレはどうでもいいの? オレの気持ちはどーだっていいの? ・・・答えろ宮子』



刹那。

耳に。
心臓に。
手に、足に。



真の言葉が突き刺さった。




千本の矢になって。




細胞の奥の奥までのめりこんだ。




息が。止まると思った。