千也さんを商談室に残したまま、ひとまず執務室に戻る。
パソコンのメールチェックをして、急ぎの用件がないのを確かめてから電源を落とし、退社前と同様に窓や書類棚の施錠を再確認。ぐるりと視線を巡らせ、デスク脇に置いてあった通勤用のビジネスバッグをチェアの座面にすとんと引き上げる。

それから手にしたスマホをひと睨み。深呼吸をひとつ。画面をタップ。・・・ワンコール、ツーコール。

『宮子? ・・・どした?』

すぐに応答してくれた真の声はどことなく訝しげ。
だよね。普通に考えたら仕事中だもん、あたし。
口を開いて、躊躇せずに一息に吐き出す。

「これから高津さんに会ってくるから」

『・・・は?!』

鋭い一声と同時に、向こう側でなにかがぶつかって転げ落ちたような派手な音が聞こえ。続けざま、地響きみたいな低い呻り声で凄まれた。

『テメ・・・、自分がナニ言ったか分かってんの? ・・・あー分かった、今から迎えに行くから1ミリも動かずに待ってな。熱でもあんだろ、帰って寝りゃ治るよ』

一切感情のこもってない冷ややかな響き。死ぬほど苛立ってる。気配がひしと伝わってくる。

こうなったら絶対に聞く耳は持ってくれない。押し切るしかない。

「メテオの北原さんが、高津さんが日本を出る前にあたしと話がしたいって伝えにきたの、最後だからって。・・・それで済むんなら会ってくる。哲っちゃんと仁兄に言うほどのコトじゃないし、真も心配しないでよ」

冷静に言葉を確かめながら紡いでく。