───そして、あの日から、約一年。
「────解せぬ」
「ん?何?何か言った?」
私の横には、ご機嫌な青山。
シルバーのフロックコートがとてもよく似合って、イケメン3割増しだ。
そして、私は、純白のウエディングドレス姿。
──あの日から、ぐいぐい押されて、私自身も絆されましたよ、確かに。
結局、2ヶ月ちょっとでお付き合いをすることになったし。
初めて二人で過ごしたクリスマスイブに、夜景を見ながらプロポーズもしてくれた。
返事は保留したけど。
でもね。
青山は付き合うこともプロポーズも、友達にも会社にも隠さず、どちらの親にも隠さず、どんどん外堀を埋めてきた。
確かにもう、30越えてるよ?
だからだろうけど、結婚はいつだ?と、皆にせっつかれるようになって。
月毎の営業目標を達成した時にある、営業部の飲み会では、私たちの話題は格好のおつまみだ。
「青山、進展なしか?」
部長が心配そうに話を振る。
課長は、少し面白がってそうだ。
「なかなかオッケーしてもらえないんですよね…」
と、悲しそうにアピールするもんだから、私が悪者みたいになっちゃう。
私も嫌じゃないもんだから、「別に嫌とかじゃないんですけど…」って言ったら、それはもう嬉しそうに、あっという間にうちの父親に電話した。
「和奈さんが了承してくれましたので、結納を…」
ちょっと待てーーー!!
まず、何で私の父親の携帯番号知ってるのー!!
それに、部長と課長の前だってば!!
私が陸揚げされた魚のように、何も言えずに口をパクパクさせていると、はいっと携帯を渡された。
「も、もしも…」
「和奈、よくやった!!
これで遠慮なく、亮太くんを釣りに誘えるぞ!」
お父さん、めっちゃ嬉しそう。
そういえば、前に一回会わせたときに、二人で釣りの話で盛り上がってたな…
私が遠い目をしている間に、ちょっと代わって、と母親の声がする。
「和奈、おめでとう!
ああ、お母さんも着物準備しないとね~!」
ウキウキだ、お母さん。
──もうダメだ、覆せない。
うんうんと適当に相槌を打って、青山に携帯を返す。
私はぐったりと、机に突っ伏した。
その様子を見て、課長が爆笑した
部長も笑っている。
そして、素敵なおじさまボイスで、一言。
「江藤さん、諦めろ」
デスヨネ………。