「─江藤?

どうしたんだよ、急に黙って?」

「…ごめん、今、ショックで走馬灯が見えた」

「それ、死ぬから!!」

ひとしきり二人で笑って。

訪れた沈黙の後にぽそりと、青山が呟いた。

「名前聞いただけで、それ?

……そんなに忘れられないのか、貴史のこと」

蓮美さんのことを聞いたときより更に痛そうな顔をして、青山が言う。

私は首を横に振った。

「あんたが言うような、『忘れられない』じゃないよ。

それって、『まだ好き』って意味でしょ?

それは絶対ない」

「じゃ、どうして俺と付き合えない?

お前、なんだかんだ言って、あれから彼氏できてないだろ?」

……青山は、意地悪だ。
分かってて、聞いてる。
その言葉を、私に言わせようとしてるのがわかる。

でも、私は言いたくないの。
特に、青山には。




───怖い、だなんて。
まだ、恋愛が。
人を信じて、心をさらけだすのが。

───怖くて堪らないなんて。