外来の診察を終えると多香子は新生児室へ向かった。
たくさんの命がきらめいているその場所は多香子の心をリセットしてくれる。

多香子は生まれたばかりの新生児たちをじっと見ながら何度も深呼吸を繰り返した。

幸せになってほしい・・・そう心から願いながら多香子は目を閉じた。



もしもあの子が生まれていたら今頃4歳だった。

春に誕生日を迎えるからと、慶輔は女の子だったら桜と名付け、男の子だったら空と名付けたいと言っていた。

目を閉じると今でも慶輔との時間を思い出す。

『多香子。』

『ん?』

『俺、頑張るから。』

『・・・』

『生まれてくるこの子を見たい。会いたい。抱きしめたい。成長を隣で見ていたい。』

『・・・うん』

『多香子が母親になる姿を見たい。』

『・・・うん』

『立派な父親にはなれないかもしれないけどさ、奇跡みたいにここに宿ってくれたこの子に、生きるっていう奇跡を見せたいんだ。』