さとみを、じっと見つめた駿が言った。
「兄貴が、あんたに本気だと思うの?」
ズキ。
さとみの心が鈍い音をたてる。
「わかってますよ。
私と社長は、いる世界が全然違う。
私が社長のそばにいられるのは、
今だけだって」
眉毛を下げて、さとみが悲しそうに笑う。
つぶやくように駿が言った。
「そんな顔で笑うなよ」
「え?」
さとみが聞き返す。
駿が言い直した。
「そんなに兄貴が好き?」
「何言ってるんですかー、
そんなこと。
違いますよ」
みるみる頬を赤くして、さとみが言う。
「さとみちゃん兄貴のこと話すとき、
どんな顔しているか、気づいてないの」
「好きダダ洩れ」
「え」
ますます顔を赤くするさとみ。
「そんな」
馬鹿正直に焦って、両手で顔を覆う。
駿の手が優しく、
さとみの手に触れた。
「そんで、ちょっと悲しそうなのも」
駿の手が、さとみの手をゆっくり下ろす。
「兄貴は誰にも、本気になんかならないよ」
真面目な面持ちの駿。
「俺にしとけば」
駿がさとみに近づいて
王子様みたいにきれいに
口に端を上げて
言った。