駿が手元のグラスを揺する。




「兄弟なんて言っても、




他人と変わりないんだ。




今でも、会って年数回だし。




会ったって、話すこともない。




兄貴のことなんて、俺はなんも知らない」




お酒が進んで、




ちょっとかわいくなった口調で





駿が口をとがらして言う。




いつの間にか、テーブルに置かれたボトルが





さとみのグラスにもつぎ足されていく。




       弟さんって…。




「さとみちゃんの前じゃ、



兄貴ってそんななのな。



あの兄貴がねえ。



さとみちゃんってすごくない」




      弟さんは、社長のこと…。




「え?」

 


どういうすごい?




他の考えに、気を取られていたさとみが




遅れて反応する。




「いや、




私なんか、社長に怒られてばかりです。




失敗ばかりして、迷惑かけっぱなしで」




自嘲気味にさとみが言う。




「でも、社長。




優しいから、




いつも助けてくれて」




さとみの目の裏に、




社長の顔が浮かぶ。





「兄貴のこと




『優しい』




なんて言う人、




初めてだけど」




「はは。」




思わずさとみも笑う。


 

「社長は厳しいし、容赦ないけど。」




あたしなんかにも




「思わず手を差し伸べちゃうほど、




本当は優しいひと




なんだと、思います」




ちょっと嬉しそうに、肩をすくめて語るさとみ。