誰もいない階段の踊り場まできた。
それでもさとみは小声。
「何なんですかー。ほんと、困りますー」
焦ってまゆ毛が、への字になりそうなさとみ。
「内緒なんだ。
兄貴とのこと。
まあ、そうだわな。
社員と付き合っているなんて、
公表してれば、俺の耳にも入ってきてるか」
悪びれた様子もなく、駿は地声で言う。
「しーっ」
ひとり焦っているさとみ。
「だから、弟さん。
本当に違うんです。
私はただの居候で」
さとみが早口で伝えようとするのに。
「今日、ごはん食べに行こう。」
びっくりするくらい王子様スマイル、
で駿が言った。
「はい?」
聞き間違い?
駿が、ゴールドの分厚い腕時計をのぞく。
「んー。六時。
会社の前に迎えに行かせる」
「いや。あの、困りま」
「じゃ、後で」
去っていく駿。
踊り場に残されたさとみ。
えーっと。
やばい。あのひと。
まったくひとの話聞かない。