それでも。
私達にとってはこれが1番なんだ。


1番良い、最後なんだ。






「あいつ、笑ってたな」
電車の中。
幸人くんが呟く。
「はじめて見たよ、桜井さんのあんな顔」
「引っ越すこと、わざわざ葵に知らせるってことはさ、あいつなりの優しさだったのかもな」
「……うん」

きっと桜井さんは、もうビクビクしなくても大丈夫だって言いにきたのかもしれない。
遠くに行くから、もう怖がらなくていいんだって。



「最後まで上から目線な奴だったな」
幸人くんが珍しく毒づいた。
でも表情は何となく優しく見えた。






高校の最寄り駅に着くと、改札口を出たところで石森くんがいた。
「おはよう、石森くん」
声をかけても、返事がなかった。