「なんかね、どこにいても居心地が悪くてさ。最近それで体調も悪くなってきて……」
私と幸人くんは黙って聞いている。

「田舎のおばあちゃんがね、引っ越してこないかって言ってくれたの。田んぼと山に囲まれた超田舎だけど、そこでのんびり過ごすのもアリかなって」

桜井さんは顔を上げて私を見つめた。


「おばあちゃんくらいだよ。私の話を聞いてくれる人って、本当にたったひとり。だから私、おばあちゃんと一緒に過ごしたい。そこの高校に通って、これからのこと考える」

「……そうなんだ」
私は桜井さんを見つめ返した。
桜井さんはそのことに気づき、ニッコリと笑った。
はじめて、桜井さんの優しい笑顔を見た気がした。