「いや、別に何もしないから」
桜井さんは白けたような表情で、幸人くんに話しかける。
「ちょっと言いたいことがあったから、越野さんを待ってただけだよ」
「もうかまうなって言ったじゃん」
幸人くんが睨む。


「そうだよ、かまったりなんかしない。ってか、もうかまえないっつーの」
桜井さんはため息まじりに言って、両手を腰に当てる。
「どういうこと?」
私は幸人くんの隣に立つ。
「葵!」


「今日は逃げないの?」
桜井さんの口元がかすかに上がる。
じっとり私を見ている、私の苦手な目。


怖い。
その目から逃げたい。


でも、この恐怖心に勝ちたい……!


「……逃げないから、ちゃんと話そうよ」