「今、帰りなの?待ってたんだけど」
話しかけてきたその声に、私は全身に鳥肌が立った。



桜井さんだ!!



「越野さん、久しぶり。この間、私のこと見て逃げたの、知ってるよ?」
私はヒザが震えだしたことがわかったけれど、即座に回れ右をして走り出した。


「逃げんな!!」
桜井さんのよく通る声が、私の足を止めた。



「越野さん、逃げるなんて考えないでよぉ。ほら、覚えているでしょ?私のこと」
桜井さんの声がどんどん近くに感じるようになり、体が震えだす。
「忘れたなんて言わせないんだから。あんた、自分が何したかわかってるんだよね?」
肩に桜井さんの手の重さを感じる。
「……めて」
「ん~?なぁに?」
私は勇気を出して、
「やめて、ください」
と言った。