「もう帰ろっか」
幸人くんの意外な言葉に、
「え?浮き輪、借りてきてくれたのに?」
と聞くと、
「このまま、あいつがいるプールに葵を置いておけないし」
と男の人を指さす幸人くん。

「幸人くんだって」
「え?」
「キレイなお姉さんに声かけられてたじゃん」
「は?」

頭の中では「やめよう、やめよう」と冷静な私の声がする。
でも心がその声を聞いていない。

「何、やっぱりなんか怒ってんの?」
「怒ってないよ、べつに」
「怒ってんじゃん」

だって「彼女」じゃないし。
「友達」にこんなこと言う資格なんかない。
でも、モヤモヤするんだもん。

あんな美人に声をかけられる幸人くんなのに、隣にいるのが私でいいの?
そばにいてもいいのかな?