逃げなくちゃ。

どこか、桜井さんに見つからないところへ！


私は回れ右をして、走った。
走って、走って、逃げた。


頭の中にあの時の桜井さんの顔が浮かぶ。


怒りでゆがんだ怖い顔だけれど、悲しくてどこかキレイな顔。



駅向こうの河川敷までやってきた。
「やだ、もう……やだ！」
頭を強引に横に振る。
それでも桜井さんは私の頭の中に居座る。

ギュッと目を閉じる。
誰もいない、静かな場所。
そのことで、桜井さんの声が耳に蘇(よみがえ)ってしまう。


『あんたが、私の恋を殺したんだ！！』



「うぅー……」
私はうずくまり、泣き出してしまった。
思い出したくないのに、頭の中には中学校の時のあの日々の記憶がどんどん蘇ってくる。