ーー今、目の前にいる彼女の顔を、私はきっとずっと忘れられない。
「……あんたが」
彼女、桜井さんは私をまっすぐ指差し、うなるような低い声でハッキリ言った。
「あんたが、私の恋を殺したんだ!!」
桜井さんが激怒する原因。
ーーそれは……。
今日、2月14日の中学校。
朝、2年5組の教室。
あちこちで、女子たちのそわそわした声が聞こえる。
「昨日頑張って手作りしたんだー」
「えー、私も作れば良かったぁー」
「友チョコっていつ渡す?」
私、越野 葵だけがひとり黙って自分の席に着き、授業の準備をしていた。