「何で、夜の森に行こうとしたんだ?」
 「………森の方が星空を綺麗に見れるから」

 
 時雨の問いかけに楓はそう言った。すると、桜は怒られてシュンッとしていたのがすぐに一転して、満面の笑みを浮かべて「あのね!」と話し始めた。


 「星空に絵を描いたのよ。星座のお話の絵よ!とっても綺麗だったー」


 桜の話を聞いて、楓は小声で桜に何かを注意し始めた。


 「それ、言っちゃだめだよ」
 「でも、話してないじゃない」
 「お父さん、今のは星空の絵を紙に描いたんだっ」


 そんな2人の話を聞いているうちに、薫は胸が締め付けられるほどの切なさと懐かしさを感じた。星空に絵を描きたい。それは、自分がいつか願った事だ。けれど、それがいつかはわからない。
 大切な思い出だったのはわかるのだ。
 とてもとても大好きな…………。


 「っっ………」


 薫が突然泣き出したのを見て、時雨もそして楓や桜も驚き、薫を心配そうに見つめた。


 「薫………大丈夫か?」
 「お母さん………?どこか痛いの?」
 「お母さんっ!」


 薫は涙を拭いて、3人に微笑みかけた。

 
 「ごめんなさい。なんか、懐かしい事を思い出しかけたんだけど。………とても幸せな事を」
 「薫………」


 時雨は薫の肩を抱き寄せて、支えてくれる。彼の表情を見て薫は彼も同じ気持ちになっているのがわかり、2人で微笑んだ。


 「………今度、みんなで山に登って、あの大きな木の下でお弁当を食べましょう。お母さん、とっても美味しいお料理作るから、ね」
 「うん!」
 「やったー!楽しみだね」


 4人は、夜空に輝く星空の下、風に揺られて気持ち良さそうにそよぐ楠の木を見つめた。

 薫と時雨は、その木の1番上で、何かキラリと光るものを見たような気がした。2人は手を繋ぎ微笑み合うと、温かい風が4人を包んだのだった。



               (おしまい)