そこには、地元にある小さな山のてっぺんにある楠には妖精がいる、その土地にある伝承のようなものだった。昔、時雨と薫はその妖精と仲良くなり、遊んでいたというのだ。そして、25歳の時に夢に出てきてくれて1日だけの再会をしたという物語のような話が書かれていた。
 妖精のイラストは、薫が描いたようだし、メモ書きも時雨と薫の字だった。けれど、2人にはそれを書いた記憶も、昔の記憶も残っていなかった。
 始めは「絵本でも書こうと思ったのかな?」と2人は笑っていたけれど、何故かそのファイルが気になって仕方がないのだ。

 切なくて、でも優しくて温かい。
 そんな気持ちにさせてくれるのだ。

 そんな事もあり、その山が気になっていると安く土地を譲ってもらえると話をもらい、偶然にも楠の大樹がある麓に家を建てることになったのだった。


 4人に家族も増え、地元での生活もとても充実していた。小学生になった子ども達の子育てや仕事をこなしていくうちに、また忙しくなり、薫達は山に向かうとはなかった。


 そして、その土地に引っ越して1年の夏の日の事だった。


 「何で夜中に勝手に家を出るの?お母さんとお父さん、とても心配したのよ」
 「「ごめんなさい」」


 その日、夜に起きた薫は子ども達の様子を見ようと子ども部屋に向かった。2段ベットを買うと楓と桜は大喜びで、もう2人で寝るようになったのだ。成長を喜びながらも、薫は少し寂しさを感じていた。寝顔を見て、元気を貰おうとしたのだが、そこには2人の姿はなかった。急いで玄関に向かうと2人の靴はなく鍵も開いたままだったのだ。
 仕事をしていた時雨にその事を伝え、2人は慌てて家を飛び出した。
 すると、山の方から走って家へ帰ってくる楓と桜を発見したのだ。2人が無事だったからよかったものの、夜の森は危険だ。
 薫と時雨は2人にしっかりとそれを伝え、もうしないようにと強く言った。