『そろそろ限界みたい。僕はしばらく眠るんだ。力を使い果たしたからね』
 「ミキ………また、会える?」
 『僕はずっとここにいるよ。だから、いつでも帰っておいで。思い出の場所に』
 「でも………私たちまた忘れてしまうわ」
 『………胸の中ではきっと覚えてる。そして、僕もずっと君達を覚えてる。だから、大丈夫だよ』
 「うん………そうだね」
 「ミキ。また、ここに来るよ」
 『待ってるよ。じゃあね、2人とも。いつまでも幸せに、ね』


 そういうと楠が大きく風に揺られた。
 薫と時雨は、咄嗟に目を瞑る。すると、そこには、もう温かい風もミキの気配もなかった。


 薫と時雨は寄り添い、しばらく楠を見上げて過ごした。
 今の出来事は決して夢ではないと信じながら。 




 
 薫と時雨は、その後急いで帰宅した。
 そして、昔の思い出や今日の出来事を残そうと、PCやノートを使い、書き残した。
 明日になれば、それが何なのかわからなくなるだろう。薫は小さい頃のミキや大人になってからの姿をイラストにした。デザインの仕事をしていてよかったと、この時改めて思った。
 日付がかわるギリギリまでその作業をした。そして、薫の誕生日が終わる頃、2人は疲れからか、ベットで倒れるように寝てしまっていた。

 その時見た夢には、どこかの山の大きな木の枝で寝ている、緑の髪に褐色の少年がいた。
 その少年は古びたノートと、星座のキーホルダーをとても大切そうに抱きしめて寝ていたのだった。



 それを見て、薫と時雨はとても穏やかに微笑む。そんな素敵な夢だった。