けれど、その不安が何だったのか。すぐにわかる事になった。
 それは、時雨と薫が10歳になった頃だった。


 「おい、どこに行くんだよ!森に行くだろ?」
 「時雨。何で、森に行くの?」


 いつもならば、「早く森に行こう!」と急かす薫だったが、その日は違った。何故かランドセルを背負い、そのまま帰宅しようとしていたのだ。


 「何って遊びに行くんだろ」
 「私、図書館に行くつもりだったんだけど………」
 「何でだよ!ミキに会いに行かないのか?」
 「ミキ…………あ、そうだよね!ミキに会いに行かなきゃ!……どうして、忘れちゃってたんだろう?」
 「…………」
 「ほら!行こう、時雨」
 「あぁ………」


 薫はミキの事を時々忘れるようになった。時雨が話せばすぐに思い出して、また森へ行き、ミキと遊ぶ。けれど、また次の日になれば忘れてしまう。
 その事を、時雨はミキに伝えられずに居た。
 それを知ったなら、ミキが悲しむと思ったからだ。


 時雨はミキの気持ちに気づいていた。
 ミキは薫が好きなのだ。
 薫を見ると、頬を染めてとても嬉しそうに笑うし、別れるときは泣きそうなぐらいに悲しむ。風邪をひいたり、怪我をすれば心配して山の薬草を沢山集めて、「これを薫に!」も時雨に託したりもしていた。
 そんなミキに、薫がミキの事を忘れ始めている、など言えるはずもなかった。


 けれど、とうとう恐れていた日が来た。