この日は、何故か木へ登るのが上手くいき、上の方まで行ってしまった。もちろん、その楠は大木なので一番上には行けない。
時雨はまだまだ大丈夫だったが、薫が先に音を上げた。
「時雨………ちょっと疲れたよ……それにもう上にいくの怖い」
「何だよー!あと少しだけ。怖いならそこで待ってて………」
「えー………じゃあ、もう少しだけ頑張る」
薫は一人にされるのが嫌だったのか、悲しい表情を見せながら、また大きな木のミキに抱きついて登り始めた。けれど、次の大きな枝までは、少し長い間隔があった。
「時雨………私、もう登れないよ………どうしよう……」
「え………何言ってるんだよ!もう少しだから頑張れっ!」
「だって、もう疲れて体が動かないんだよ」
「……待ってろ!今、そっちに行くからっ!」
時雨は急いで、彼女の元へと向かう。薫の腕が小刻みに震えているのがわかった。本当に限界なのだろう。
「……………ダメだよ………もう間に合わないよ………」