時雨は薫の顔を見て、驚いた表情を見せた。それを見て薫はハッとした。もしかして、彼もあの日の事を思い出したのではないか、と。


 「「ミキ」」

 
 同時にその名前を呼んで、薫と時雨は目を大きく見開いた。どうして彼も思い出したのだろう。彼の事を。


 「どうして、私たち忘れてしまってたの?」
 「それは、子どもじゃなくなったから」
 「え……それってどういう事?」


 時雨は何かを知っているようだった。けれど、彼は何か考え込んだ後、ハッとした。
 そして、ベットの隣りにあるオケージョナルテーブルの上に置いてあるあの紙を取った。


 「時雨?」
 「………この、俺が書いた『薫の25歳の誕生日 薫を守れ!』って、ミキが25日の誕生日だけは僕がもらうって言ったんだ。……そうだったんだよ………。って事は、今日だけはミキの記憶があるって事かもしれない。現に、今俺たちは昔の事を覚えてる」
 「え………それじゃあ、もしかして………ミキに会えるの?」
 「それは………わからない。子どもじゃなくなった俺達があいつに会えるか……。でも、確かめてみたい」
 「うん。じゃあ………行こう、森へ」


 2人は頷いて、すぐにベットから降りた。
 薫はもう1度手の中の琥珀を見つめた。
 夢の中だけのデートのはずだった。それなのに、どうして手の中にそれがあるのか。
 本当に彼がこの場所まで来てくれたのではないか。
 薫はそう信じてやまないのだった。