「ミキ………ねぇ、ミキ…………?」
 「…………」


 薫が瞬きをした後か、唇を離れた後か。
 辺りは濃い霧のような靄がかかった。
 あっという間に2人は靄に囲まれ、少しずつ目の前のミキの顔も見えなくなっていく。
 焦り、不安に駆られて薫はミキを呼んだ。彼の香りも温もりも感じられなくなる。ミキはそんな薫をただ悲しげな顔で見つめるだけだった。そして、ついに、彼の姿は見えなくなり霧が光を覆い、真っ暗闇になる。
 

 「ミキーーっっ!!!」


 自分の叫び声で、薫はハッと目を見開いた。

 起きていたはずなのに、目を開くというのはどういう事なのか?自分でもわからなかった。
 

 「薫………大丈夫か?」
 「……………し、時雨…………」


 薫は時雨の寝室のベットに横になっていた。

 窓からは、柔らかな太陽の光りがうっすらと見える。その視界はぼんやりとしている。
 薫は目を擦ると、自分の手には温かな涙があった。
 自分は泣いていたのだ。


 目の前にいる時雨は、薫を心配そうに見つめている。

 薫は、ただただ泣くことしか出来なかった。

 緑色の髪に褐色の肌の子どものような彼を、薫は忘れてはいなかった。