「ど、どうしたの?いつもの服装だよ?」
「そうだけど、可愛いって思ったから言いたくなった」
「………ミキだってかっこいいよ」
「僕、かっこいいんだ!嬉しい」
ミキはまた少し照れたような顔を見せて、薫の言葉を喜んだ。
彼がそんな反応をしてしまうからなのか、何故か薫まで顔を赤くしながらミキを褒める。付き合いが長くなると、なかなかこんな会話などがなかったかもしれない。薫は久しぶりの感覚になった事を感謝した。
「今日寒くなるってテレビで言ってたけど、温かくした?」
「あ、そうなんだ……。じゃあ、手袋持っていこうかな」
「手袋はいいよ!また昔みたいに片方落として泣いちゃうでしょ」
「………え、そんな事あったっけ?」
「あったよ。子どもの頃、薫が大切な手袋を森の中で落としてしまって泣いたんだ。だから、僕は森中を探したんだよ」
「………そんな事もあったね」
彼がその話をすると、不思議とその光景が頭に浮かんできたのだ。お気に入りの、真っ白でウサギの尻尾のようなポンポンがついている手袋。それを落としてしまって、泣いてしまった事を思い出した。それをミキが見つけてくれたのだ。
「今でもなくなったら探してあげるけど………手を繋げば温かいんじゃない?」
「うん。そうだね」
ミキが差し出した大きな手。
それを見つめていると、何故か懐かしい気持ちになる。昔の事を思い出したからだろうか。
「じゃあ、行こう。楽しい誕生日にしようね」
「うん!楽しみ」
ミキの太陽の日差しのようにじんわりと温かい手の温もりを感じながら、薫はミキと共に家を出た。
不思議なデートが今、始まろうとしていた。