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リアルに、だいぶ学校から歩いたと思う。
学校に近い所にある割と大きな公園に入っていく七島。
「ね、……あのー」
ようやくかけた声がやけに高くなり、軽く震えてしまっていた。なんて小心者。
七島とは、クラスも違うのでまともに話したことがないから、かなりのド緊張だ。
あの七島と初会話!
ブランコの近くまで来たところで
やっと、七島は立ち止まり私の手首を開放した。
強く掴まれていたせいで、まだ、じんじんする手首を少し左手の指で擦る。
「あの……」
「あ?」
わーぉ、七島なんか怒ってない?
眉間に皺を刻む七島。
さっき校門の所で七島が私を「お前だ」と指差したことに心底驚いたし
七島に手首を掴まれたことも驚きだった。
でも、この怖い顔にも驚いてしまう。
なに、その顔。お前が私をここまで連れてきたくせに!
全てが平凡な私の日常にあり得ないシチュエーションだ。
私と七島は、クラスも違うから
思えば、まともに話したこともない。
それに、自他共に認めているが私は美人の部類じゃない。
今更、間違えたとか言うんじゃないでしょーねー。
それはそれで……
キョロキョロと辺りを窺っている七島。
「あのさ、なんで私を選ん」
私の質問を最後まで聞かずに七島は食い気味に質問してきた。
「お前、名前は?」
「あ?…はあ……」
やっぱりだ。
同学年なのに私の名前も知らないか。
近くにあったブランコに座った七島は私を見上げた。
「田中 舞」
「何年?」
うっ、マジか。そこも知らないのか。
「2年。ちなみに5組」
「へータメか。お前みたいのいたっけ?もしかして最近転入してきたとか?」
「いえ、いましたけど入学式からずっと」
やっぱり、私ときたら七島に全然知られてない。ある意味落胆してしまう。
「あの、どうして……今月は、私に……したの?」
内心、少しだけワクワクしていた。
なんにしても七島に選ばれた女というのが、私の低い鼻を少しだけ高くしていた。
特別選ばれたことなんて、ないからなー。あるとすれば皆がやりたがらない係や委員の類だけだ。
ブランコからおりた七島は私の前に立って
少し小馬鹿にしたような意地悪な笑みを浮かべた。
「あーー、今月は、絶対」
背の高い七島は、私を明らかにわざと見下していた。
「絶対にかわいいコじゃないのにしようと決めてたから」
答えを聞いて、びっくりとがっくりが同時にきた。
身体の力がフニャフニャに抜けていく。
結局そんな失礼な理由か。
「……」
なんも言えない。わかってますよ。
自分のランクぐらい。
でもねー、本人を、前にして言うのならもっとオブラートにくるんで言えないものかね。
ただただ……一瞬でブルーな気分だ。
少しもヤツに気に入られた訳じゃなかったのね。
七島の気まぐれな理由、いや、かわいい子じゃないというなんとも情けない理由で選ばれただけだったんだ。
あー情けないやら悔しいやら。
やっぱり、コイツは外見だけの嫌なヤツだったか。